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『仮母女(かもめ)』【怖い話・長編】

怖い話・体験

3原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「海星さん」 2010/09/22 19:03

女将の話の続き。

先述の地主は、仮母女の供養後も商売全てが上手くいかなくなり、とうとうこの旅館も土地ごと手放すことになった。
その旅館を引き継いだ者は旅館を改築し、かつてカモ部屋として使われていた一室も客室に改装した。
もう怨念は晴れたと考えられていたからだ。
ところが…その部屋に泊まった者から、数々のアレの目撃談が寄せられた。
押入れの中の、真っ赤な目をした歯のない女だ。

旅館の主人は、急いで先述のお寺のお坊様に来てもらった。
その部屋に入るなりお坊様は眉をひそめ、すぐに主人に言った。
「今すぐ彼女たちのお墓を調べなさい。」
主人とお坊様が一緒に仮母女の墓を掘ってみると…果たしてカゴの中の水晶が消えていた。
あの地主がこの地を離れる際に、あろうことか墓を暴き、仮母女の眼球…そう、水晶を盗み出していたのだ。
主人は慌てふためいた。
「どっ…どうしましょう?!
 あの地主、この村を離れて以来、消息がつかめないって話ですぜ。
 しかも私には、あんな水晶を買うようなお金なんてありませんよ!」
お坊様は静かにこう言った。
「落ち着いて下さい、ご主人。
 見たところ、ここにいたほとんどの女性は成仏しております。
 ただ一人だけ、目を潰されて、しかも歯まで抜かれていたとかいう者の怨念だけ、微かに残っていますね。
 ただ、この者も…こちらが怒らせない限りは、まぁほとんど害のない程度の怨念になっています」
主人は少しホッとした表情を浮かべ、聞いた。
「一体どうしたら良いんでしょうか?すぐにでも成仏してくれないんでしょうか?」
お坊様は答えた。
「まぁ、すぐには無理でしょうな。
 とりあえず、何となくこの事態は予想していたので、ひとまずはこれを埋めましょう。
 話の続きはそれからです」
そう言って、袈裟の袂から眼球大のガラス玉を2つ取りだし、へその緒のカゴに納めて再び埋めた。

旅館の仮母女の間に戻り、お坊様の話が続いた。
「この部屋にいる女は、以前埋めていた水晶の力で、ある程度の気は晴れておるようです。
 でもやはり、まだ悔しい、悲しいという念は残っていますな。
 まぁあんな仕打ちを受けていたのだから、無理もないでしょうが…。
 しかし、今から言う決まりさえ守れば、この部屋を客室として使うことに差し障りはないですぞ」
主人は驚いた。
「えーっ!?こんな幽霊部屋…使っていいんですかい?!」
お坊様は静かに、たしなめるように答えた。
「これから私が言う決まりを、必ず守らなければいけませんがね。
 まず1つ目。なるべく男女の組を泊めないこと。
 男と女が対で泊まれば、アレは昔の忌まわしい仕打ちを思い出して、押入れから顔を覗かせるでしょう。
 まぁ、単に覗くだけで特別に害は為しませんが…それでもアレを見た人はびっくりしてしまうでしょうからね。
 家族であっても、男女の組ならばアレは覗いてきます」
主人は「はい。はい」と熱心に覚書きに記しながら、話を聞いている。
お坊様は話を続ける。
「2つ目の決まりですが、こちらは大事です。
 この部屋で不浄な行い(男女の営み)を決して行わないこと。
 それは必ずアレの逆鱗に触れるでしょう。
 何をしでかすか分かりませんが…とにかくとても恐ろしい害を与えてくるでしょう」
主人は身震いしながら尋ねた。
「でもお坊様。そんなに恐ろしい霊なら、やっぱりこの部屋は閉じてしまった方がいいんじゃ…」
お坊様は静かに首を横に振る。
「まぁ、それは最終的にはご主人の裁量に委ねますが…。
 しかし、悪い霊というよりも、可哀想な霊なのですよ。
 怒らせさえしなければ出てくることもないでしょうしね。
 恐らく不妊の病を抱えるご婦人には、良い恵みを与えてくれるかもしれませんよ。
 仏様だって、我々の所業によって、禍福それぞれをお与えになりますしね」
そういう訳で、仮母女の間には女性客のみを泊めることになったという。
不妊に効くという噂も広まり、そこそこ繁盛するようにもなった。
しかし、やはり中には俺と洋子のように決まりを破る客もいたらしい。

「それで…その決まりを破ったカップルはどうなったんですか?」
俺は背中に汗をぐっしょりかきながら、女将に詰め寄った。
クーラーの冷気がその汗を冷やし、ずっと背筋がぞくぞくする。
「…貴方があったのと同じ目にあっています。
 仮母女は、自分の部屋で夜の営みをした男女を激しく憎み、女の目を潰します。
 …そして、話によると、どうやらその…子宮をも潰してしまうらしいです。
 そう、一生子供が生めない体にしてしまうのです」
俺は言葉を失った。
「そっ…そんな…。俺、昨日途中で気を失ってたけど…アイツ洋子の体にそんなこと…」
怒りと恐怖で震える俺を悲しそうに見つめて、女将は続けた。
「私も、これ以上は説明申し上げるのも心苦しいのですが…。
 両目を潰された女性は、まず眼球が真っ赤に染まり、瞳が白く濁ります。
 恐らく、あなたがご覧になったアレと同じ目になるんです。
 子宮は潰されているので、歩くたびに想像を絶する苦痛が襲うようですが…悲鳴などは決してあげることはないようです。
 ただ歩くとき、異常に内股になるようですがね…」
俺は心臓をギューッと鷲掴みされたように苦しくなった。
「洋子は…彼女は今どこにいるんです?!もう治らないんですか?!」
女将が答える。
「洋子さんは、例のお寺様に向かっております。
 仮母女に目を潰された女性は、完全に視力を失うまでに3日かかると言われています。
 その3日間は…洋子さんは洋子さんでなくなっています。仮母女が憑いているのです。
 そして、その3日のうちに男の方を…つまり貴方を探して憑きます」
「3日…」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
「そうです。3日です。
 ですから、貴方はすぐにでもご自宅に戻って、3日間は決して家から出ないようにして下さい。
 3日経つと、洋子さんの視力は完全に失われ、また仮母女は離れていきます。
 …でも…恐らく、正気の洋子さんに戻ることはもうないでしょう。
 貴方が3日を無事に過ごすことができれば…その状態の洋子さんになら会うことはできます」
仮母女が3日だけ目が見えるというのは、墓のカゴに入れられたガラス玉のせいらしい。
もしそれが以前の水晶だったら、その期間は1月以上になっていただろうとのことだった。
…だが、そんなこと今の俺にはどうでも良かった。
今すぐ家に帰らなければ…。
そして3日たったら必ず洋子を迎えに行って、それから洋子のご両親に土下座して…
それから…それから…洋子の面倒は俺が一生見る!
そんなことをグルグル考えていたら、部屋の廊下をバタバタ走る音がして、部屋の襖が勢いよく開いた。
そこに立っていたのは…洋子の両親だった。

 

4原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「海星さん」 2010/09/22 19:04

洋子の母親が俺の前に大股でズカズカと近づいてきたと思ったら…
パーン!
口の中にジワーッと鉄の味が広がる。
頬を思いっきり殴られたようだ。口の中が切れている。
「あなた…あなた…!!
 よくも洋子を…!
 あんな嘘までついて…。
 よくも…よくも」
洋子の母親は顔を真っ赤にして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
父親はそんな母をたしなめることもせず、じっと俺を睨んでいる。
「あなた…。彼氏なら…どうしてあの子を守ってやれなかったの?!
 なんであなたは平気で…洋子だけ…洋子だけあんな目に…!」
母親は化粧をしていたのだろうが、涙でマスカラやアイシャドウが溶けて、目の周りは真っ黒に染まっている。
どうやら旅館からの連絡で、ここに来る前にお寺に行って洋子の姿を目にしてきたのだろう。
「本当に…本当に申し訳ありませんでした!
 この責任は必ず取ります!
 一生かけて償いますから!」
俺も既に涙声になっていた。
その様子を見ていた父親が一言、
「とりあえず話は3日後ゆっくり聞かせてもらう。君は今すぐ帰りなさい」
お寺の方で既に彼らも事情を説明されていたのだろう。
俺は畳に頭をこすりつけ、土下座の体勢でしばらく黙っていた。
「いいから早く帰りなさい」
再び父親の声が響き、肩をポンと叩かれ、家に帰るよう促された。
それから俺は急いで荷物を詰め(失禁したパンツだけ旅館に捨ててきた)、駅まで旅館の車で送ってもらい電車に乗った。

そして電車で2時間…やっと地元に戻ってきた。
見慣れた景色に戻って、もしかして全部夢だったりして…なんて都合の良い現実逃避をしていたら…
まるで『そんなことさせないよ』と言うかのように俺の携帯が鳴った。
旅館からだった。
『もしもし。○○良一様(俺の名前)の携帯でしょうか。
 あの、私△△旅館の女将の△△ですが…』
俺は女将のただならぬ声のトーンに不安を抱きながらも、
「はい。僕です。さきほどはどうもお世話になりました」と答えた。
『あっ、良かった…一応携帯を聞いておいて…。
 実は今しがたお寺から連絡があったんですが、洋子さんがお寺からいなくなったそうなんです!
 どうやら、少し目を離した隙に、ご家族が無理矢理縄とお札をほどいてしまったみたいで…。
 ご家族の方ともどもいなくなってしまったんです!
 お坊様がすぐに洋子さんのご自宅に向かわれるそうですが、くれぐれも3日間ご用心なさいませね。
 絶対に外には出ないように。それと、なるべくなら声も出さないようにして下さい。
 アレは耳が異常にききますから…』
俺は携帯を耳に当てたまま、サーッと血の気がひいて、その場に倒れそうになった。
昨夜のアレの恐ろしい顔が…見開かれた真っ赤な目が…その中の白濁して焦点の定まらない瞳が…
ニターッとしたいやらしい笑いが…歯のない空洞のような口が…脳裏によみがえった。

俺は駅から全速力で自宅に戻り、部屋に閉じこもった。
家族が心配して声をかけてくるが、何も答えられない。なるべく声も出したくない。
ご飯なんか喉を通る訳がない。ただ頭の中とのどがカラカラに乾いている。
たった3日間だが、無事に過ごせる保証はどこにもない。
部屋のクローゼットの隙間からアレが出てくるかもしれない。
アレに憑かれたらどうなるんだろう?
俺も洋子みたいになるのか?
眼球が真っ赤になり、視力を奪われるのか?
気が狂ってしまうのだろうか?
いや、もう既に俺は狂ってきているのだろうか?
洋子は家族と一緒にいるのだろうか?
家族がまた寺に連れ戻してはいないだろうか?
洋子は俺のところに来るだろうか?
洋子の母親の声がよみがえる。
『なんで、あなたは平気で…!
 洋子だけこんな目に…!』

もしも俺が3日のうちに洋子に…いや、洋子の姿をした仮母女に見つかり、最悪とり殺されるようなことがあったら…。
どうか俺の家族は洋子を恨まないでほしい。悪いのは、全部俺なんだから。
無理矢理洋子を旅行に連れだして、旅館の禁忌を犯してしまった俺の自業自得なのだから。
俺がこの手記を残すのは、真実を明らかにしておくためと、俺の家族に洋子を恨まないでもらうためでもある。
もし俺が3日の内に死んでしまったら、この手記を遺言代わりにしてもらいたい。

父ちゃん、母ちゃん、今までありがとう。
良二(弟)、小さい頃いじめてばっかでゴメンな。
俺のゲームとマンガ全部お前にやるよ。

その後、良一さんの手記は家族に対する感謝や、友人たちへのメッセージで埋められていたそうです。
この手記を私の友人(良二)が見つけたのは、つい最近のことだそうです。
そして良一さんは、今…県内の精神病院に入院しています。
文中は全て仮名です。
県名は、分かる人には特定できるかもしれないです。

関連話: 『洋子さん』

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