【怖い話・短編】
【怖さ 6】★★★★★★☆☆☆☆
『足跡の主は』【怖い話・短編】【怖さ6/10】
中野で賃貸住宅を探していた。
結婚したばかりの妻がいて、同居人可のところを探す必要がある。
更にペット(変に思うかも知れんが、ホンモノの「鷹」)がいるのでペット可マンションを捜さなければなれず、しかもペットがペットなので部屋探しは難航していた。
そんな中、ある不動産屋でペットの件を相談したら色々探す中、はっと気づいたように
ここ、どうですか?と聞いてきた。
「鷹、いいんですか?」
「ええ、大家さんはいいって言ってます」
「鳥だからけっこう汚れますよ?」
「大丈夫です」
「同居人は」
「狭くても結構でしたら」
6畳とキッチン、ユニットバスのワンルームで5万円、私鉄の駅まで3分の好立地。
ワンルームとはいえこれで同居人、ペット可は本当かと疑ったが、どうも本当らしい。
妻と一緒に見に行くことになった。
(この時はペット可ではない)裏がすぐ墓場、という事もあったが、そんなことも無い。
至って普通の建物だった。コンクリート3階建ての2階。
「ここってやっぱり、みんな犬とか猫とか飼ってますよね?」
鷹を飼ってるので、傷つけても傷つけられても困る。一応、確認してみると
「いえ?誰も」
「え?ペット可じゃないんですか?」
「ええ、本当は違うんですけど・・・」
「大丈夫なんですか?黙って飼ってて、見つかったら出てけじゃ困るよ?」
以前に、そういうことがあった。
「ええ、大家さんはいいって言ってます。」
なんだか、よくわからないが良いって言ってるんならいいか・・・
2階に上がると、廊下を挟んで両側向かい合わせに部屋が並んでいる。
廊下を灯す室内灯がやや暗く感じた。
ん?
廊下に何か・・・?足跡か?
不動産屋の若い男の説明を他所に、「それ」に釘付けになった。
それだけなら、特に不思議ではない。
しかし、足跡の形と位置がおかしい。
説明が難しい。全体は女の爪先立ちに最も似ているが、指の数が親指も含め4本、
数が合わない。犬でもない、猫でもない。
その他知っている限りのあらゆる生き物とも異なる。
人間の女の足で、指が足りない。それいがい、考えられない。
それがちょうど踵を浮かせて、更に踵方向を合わせる形で1セット。
これが交互に前、後ろが逆になりながら奥の部屋へと続いていた。
目が点になった。
もともと、鷹以外にもいろんな動物を扱う仕事をしていたので動物にはけっこう詳しい。しかし、どんなに頭を捻ってもこの足跡の答えが見つからない。
しかし、結局安さと便利さには勝てない。
これから先、すぐにペット可の物件が見つかるかも分からない。
そもそも、これまでに相当の時間が掛かっている。
今のアパートもすぐ出なくてはならない。
ここならベランダも広く、鷹を置くスペースも申し分ない。
結局、即決という形になった。
電灯を消すと、3階で走り回る音がする。
3階は以前大家が住んでいたが、今は誰も住んでいないはず。
歩幅と走り方などから子供の足音のようだ。
なぜ大家がここを出て近くに移り住んだのか、知りえない。何かがあったのか・・
電気をつけると、音は静まる。消すと、音がする。
その日はそれで終わった。
その後、鷹を連れてくると異様なことは起こらなくなった。
しばらく住んでいると、幾つかわかってきた。
まず、住人はうちの部屋を含め、3部屋しか入っていない。
うちと、向かいの部屋に若者の男が一人、
音楽をやっているようで、たまにロックが聞こえる。
一番奥、足跡が続いている部屋に中年の男が一人。
特におかしいところも無い、普通のおじさんだ。帰らない日が多い。
部屋数は6部屋あるが、残りは会社の倉庫や空き部屋の様子。
足跡は、定期的についている。というより月に何度か業者が掃除に来るのでそのときに
足跡は消え、いつの間にかまたついている。
いつしか、足跡があっても特に気にならなくなっていた。
廊下の電灯は防犯のために一日中点いているので、ドアののぞき窓から小さな光が差し込んでいる。それ以外はほとんど闇の中だった。
ふと見ると鷹がドアのほうを凝視している。
鳥は暗い中では何も見えないので普通はじっとしているし、それが訓練になるのだが、
其の時は違った。一点、ドアに向かって睨み付けるように集中している。
そして腰を落とし、口をやや開きながら威嚇の姿勢をとり始めた。
これは何かある・・・と思った刹那、のぞき窓の光がすうっと消えた。
それまでに何度かこの訓練は続けていたので、深夜に若者が帰ってきて足音や光の加減で
それが人間というのは判断できた。鷹もちらりと一瞥することはあっても、凝視などしたことは無い。
これは違うぞ、「あれ」だ、足跡のやつだ・・・
直感的にそう感じた。
移動している。音は無い。
感覚としては、ふすまくらいの高さのぞろぞろとしたものが廊下を通っている感じ。
その証拠に鷹の頭も少しづつ動く。
冷や汗が噴出す。背筋が凍り続ける。見たい、いや、それはいけないと鷹の様子が知らせる。緊張の時間が続く・・・
ふっと、光が戻った。暫くは動けなかった。
鷹も落ち着いた頃、ほんの少しだけドアを開けて廊下を見た。最後に見たときには無かったはずの足跡が生々しくそこにあった。
後日、霊が見えると自称する数名にこの話をするとみな一様にもう話さないでくれ、と
話を遮られた。
その後半年ほどそこに住んで、田舎に引っ越した。
あの足跡の主はなんだったのか?何の為にあの部屋に出入りしていたのか?
その部屋の中年の男は一体・・・今考えても、背筋が凍る。
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