『山と月』【不思議な話・短編】【不思議さ6/10】

不思議さ★6
スポンサーリンク

元スレ: 死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?362

【不思議な話・短編】
【不思議さ 6】★★★★★★☆☆☆☆

『山と月』【不思議な話・短編】【不思議さ6/10】

791: 本当にあった怖い名無し 2021/07/04(日) 16:08:00.96 ID:1+woRPaB0
うちのじいさんと狸の話。じいさんは畑もやっていたが、
1年のうちの何ヶ月かは山暮らしだったんだよ。生計が半分、
趣味が半分って感じでね。あちこちの山に簡易的な小屋を建てて、
そこを泊まって歩く。その間、食料はむろん山の中で調達するんだ。
いやいや、冬場でなければ山は豊かだ。
今の植林した杉林ではどうにもならんが、雑木が濃い山なら、
木の実、山菜、キノコに獣肉・・・じいさんは鉄砲持って歩いてたからね。
だが職業的な猟師ってわけじゃなかった。兎や山鳥を撃って
自分で食べるくらいで、炭焼きが主だったな。あとは薪の切り出し。
どこも国有林の今とは違って、じいさんの当時は山の奥の奥に分け入れば、
誰のもんでもない場所だったんだ。

ある山に入った晩のことだ。当然、夜間に行動なんて厳禁なんだが、
そのときは、どういうわけだか行程の計算を間違えてね、
次の拠点小屋に入るのが遅れちまったんだ。それでもまだ6時過ぎだった。
雨でも降ってれば適当な場所で野宿したんだろうが、
空は晴れてたし、小屋まであと1時間足らずってとこだったから、
松明を灯して先を急いだんだ。
で、林の中を抜けて尾根に出たとき、妙に空が明るいことに気づいた。
見ると、桃の実のような大きな満月が向こうの山の端にかかってた。
赤っぽい色の見事な月でね、しばらく見とれてたんだが、
そのうちにその日が二十夜過ぎだってことに思いあたった。

792: 本当にあった怖い名無し 2021/07/04(日) 16:09:06.12 ID:1+woRPaB0
二十夜を越えると下弦の月だよな。俺はあんまり詳しくないが、
満月じゃないし、そもそもまだ月が出る刻限じゃない。
これはおかしいと思ったとたん、つぶてが足下に降ってきた。
それも不思議なんだよ。森の中ならともかく、そのときいたのは
見晴らしのいい尾根で、石を投げれば投げた場所がわかるはずだ。
それがまるで中空から湧いて出るように2発目、3発目が飛んできた。
4発目、大人の握り拳大のが頭をかすめたとき、じいさんは飛び退って斜面に伏せた。
でね、背負ってた鉄砲を抜いて、慎重にねらいを定めて撃ったんだ。
何を撃ったかって? もちろん、空にかかる満月だよ。
ガーンと鉄砲の音がし、そしたら空のほうでもガーンという音が響いたんだ。

目をぱちくりさせると、月はなくなってた。
で、さっき出てきた森の中から「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」と、
大勢の笑い声が重なったような音がした。ぞーっと怖くなったが、
じいさんは鉄砲を収めると立ち上がって胸をはり、腰の山刀を
見せつけるようにして、ゆっくり歩いて小屋へと向かったんだ。
で、小屋について入り口の筵をめくると、土間に大きめの銅鍋が転がってた。
拾い上げると、底がへこんで大きな穴が開いていた。鉄砲の穴だとわかった。
それでじいさんは合点がいったんだよ。鍋は、前にその小屋に
山仲間と入ったときに狸汁を煮るのに使ったもんだったから。
夜っぴて寝ず、囲炉裏の火を絶やさないよう警戒して過ごしたせいか、
その後はおかしなことはなかったらしい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました