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【怖い話・中編】
【怖さ 7】★★★★★★★☆☆☆
『津軽街道』【怖い話・中編】【怖さ7/10】
少し長くなるけれど、
自分が体験した話をちょっとだけ聞いて欲しい。
いや、聞いてくれなくても書くのだけれど。
この間、一人旅に行ってきたのね。車で。
旅といっても、基本的に金がないから、
下道使って道の駅とかカプセルホテルとか
24hの風呂施設とかを使ってブラブラするような感じなんだけど、
そういうのに慣れてるので普段通り楽しんでた。
んで、4日目の夜だったかな?
秋田から青森だったか宮城から青森だったか忘れたんだけど、
津軽街道(確かあってるはず)ってところに入ったんだけど。
この道が、坂道でうねるわ狭いわ街灯もミラーもロクにないわ
自分の他に走ってる車もいないわな、田舎にありがちな酷い山道で。
でも、そういうのにアホかよってツッコミ入れながら走るのも楽しいので、
Twitterに上げるネタになるななんて考えて走ってたんだけど、
カーブで減速した辺りだったか、とにかくライトで照らされた先の道端に、
靴が一足落ちてるのに気が付いたんだよ。
運転する人なら一度や二度は見たことあるんじゃないかと思うんだけど、
車が走る道端に何故か落ちてる靴。アレ。
でも、街中でも不思議だってのに、山の中なら尚更意味不明になる訳で。
まぁ、ちょっと良からぬ想像とかしちゃいつつも、
だからと言って何をする訳でもなく、そのまま車を走らせてたんだけど。
ふとまたライトの先に影が見えて、
鹿か何かと思ってブレーキ気味で進んでたら、
人が立ってたんだよ。左車線真ん中辺りに。
いや、普通に人。普通の顔。普通の格好。
どう普通だったかって言われる難しいんだけど、
スカートじゃなくて、TシャツじゃないけどTシャツみたいな
女の人が着てるようなやつ(何て言うの?あれ)着てて。
まぁ、街で見ても特に何も思わないよねっていう見た目。
あ、言い忘れたけど女ね?
で、まぁ、まずビックリするじゃない。
こんなところで何してんのって。
んでもって、あんまり良い想像はできないよね。
事故か故障か。悪いと事件か。
どっちにしても旅の途中にロクなことにならん訳ですよ。
とはいえ無視して行くわけにもいかないのでそこで車停めたんだけどさ。
その女の人、片足靴履いてないのが目に入ってさ。
まぁ、思い出すよね、さっき落ちてた靴。
ああ、もうこれロクでもないことでほぼ確定だなと。
警察沙汰だ多分とか思いながらも、
小心者なのでヤーサンだのヤンキーだの出てきたりしないか確認して。
とりあえず携帯持って車を出ようとしたら、ホント突然、
その女の人が走りこんできたのよ、車に向かって。
んで、何を思ったかフロントの前方にバン!と突っ伏してきて。
呆気にとられる俺。でも、そんなのお構いなしに、
フロントガラス手前まで伸びた手が何度もバンバンって車のフロントを叩くんだよ。
正直意味が分からない。
いや、そのときは何か色んなことを考えたような気もするんだけど、
人間こういうときはまずは「やべぇ」って気持ちが前に立つのか、
意味が分からないなりに、ドアの鍵をまとめてロックしてた。
でも、状況が変わるわけでもなくて、
え? これどうすりゃいいの? って呆然としてる俺の前で
バンバン音を立てて両手が暴れる。
ハタから見てたらシュールな光景なのかもしれないけど、
目の前で見てる本人にしてみたらたまったもんじゃない。
明らかにおかしいけど、アクセル踏んだら人身だし、
バックして離れようにも振り落すことになるし、
あとは外に出て引っぺがすかなんだけど、
いやもう断言する。無理。
んで、そんなこんなの状態のまま少し経って、
ようやくフロントで暴れるのをやめたんだけどさ、
今度はズリズリと動いてくるわけ車なでる様にして。
ドアの方に。
いやもう勘弁してくださいって気持ちになるよね。
鍵かかってるっけって、さっきロックしたばかりなのに
何度もロックの方に押し込んだのを覚えてる。
で、案の定ガチャガチャやるわけ。ドア。
もう、これ、別の意味でヤバイと思って、
ここにきてようやく警察呼ぶべきだと思い至って。
携帯を取り出したんだけど、ソレを見たからなのか、
それともたまたまなのか、急にドアから離れたのよ、その女。
しかも、車後方の林の方に。
人間てな不思議なもんでさ。
もう、ここは躊躇いなくアクセル踏んでこの場を離れるべきなのに、
つい見ちゃってたのよ。何してんだ?って。
いや、それまでの行動が意味不明だったから、
気になっちゃってたのかもしれないけど。
でもさ、すぐに思い直したたね。だってさ、その女。
林の中で何してんのかと思ったら、
両手に抱えるくらいの石持って、こっちにまた歩いてきたんだよ。
それなりに重量ありそうなのに、結構なスピードで。
しかも笑顔で。
正直、キチガイじみた顔してくれてた方が良かった。
何ていうか、それならまだ何ていうかそういうもんだって思えるじゃない?
でもさ、奇行を繰り返して、フロントバンバン叩いて、
ドアガチャガチャやって、果てはデカイ石持って歩いてくる変人が、
普通の顔で、普通に笑顔で歩いてくるんだよ。
もう、怖ぇ以外の感想でてこねぇよ。
で、ホントにコレはヤバイと思って、
距離がある内に前に急いでアクセル踏んだ。
バックミラーで、石を思いっきりふりかぶって
投げてる姿が見えたけど、見なかったことにした。
一旦走り出すと、とてもじゃないけど
止まって電話かける気にはなれなくてさ。
とにかくこの道さっさと離れて、人のいるところまで走らせて、
それから警察に行こうって思ったのよ。
でもさ、ヘアピンカーブが続いて、ちょっとしたところだったかな。
またいるのよ、さっきの女。
進行方向直線上に。
パニくったとしか言いようがない。
ただ、止まるワケにはいかないって気持ちだけはあって。
飛び込んでこないかだけ心配だったけど、
立ち尽くしてる女の前で思いっきりアクセル
踏んでも右斜線から追い抜いた。
上手くいったことにホッとした気分なんてまるでなくて、
もう、これ、本当に俺、オカルト体験ってヤツをしてるのかって
思いもしたんだけど、ナビでしばらくヘアピンカーブが続くのを見て。
あれ? アイツ、もしかして、
ヘアピンカーブをまっすぐ降りてきたんじゃないか?
って気が付いて。
車で山道を下りるときって、かなり蛇行するから、
そこを直線でまっすぐ降りれば歩きだとしても相当時間を短縮できる訳で。
いや、勿論、街頭もない山道でそんなことやる時点で頭おかしいんだけど。
でも、それって。 またいるんじゃね? ってことも意味してて。
エンブレかけながらも可能な限りスピード上げて、
ひたすら山道を下ってくんだけど、
ヘアピンを下っていくのはそれなりに時間がかかる訳で。
俺の努力も空しく、やっぱりいたんだよ、また。あの女。
今度は小さなトンネルの先。
出口先のカーブを塞ぐみたいに立ってて。
街頭もない山道で。片足裸足で。
もうここまでくると、
もしかして居眠り運転で夢見てんじゃないかってくらい現実感なくて、
ただ、またここで止まる訳にはいかないって気持ちと、
今度は飛び出してくるんじゃないかとか色々不安になりながら
減速気味で距離を詰めて右斜線にハンドル切ろうとしたときに。
こっち見ながらニヤニヤ笑ってるのが見えてさ。
反射的に思いっきりブレーキ踏んだ。
今思うと、それで正解だったんだろうなと思う。
反対車線から、トラック出てきたし。
いや、トラックも近くにいる女に気付いたのか
思いっきりブレーキ踏んでたけど、
俺が加速して右斜線にはみ出してたら衝突してたろうなと。
で、俺の車のライトとトラックのライトに照らされながら、
女はまた林のほうに入ってった。
トラックの運ちゃんの顔は高さ的に見えなかったけど、
ゆっくり俺とすれ違ってそのまま俺が来た道を走ってった。
俺はと言えば、トラックとすれ違った直後から
ひたすらダッシュしてた(勿論車で)。
ヘアピンでカーブもショートカットできそうな地形も、
その先はほぼないように見えたから、そりゃもう思い切り。
幸い、あの女にもう会うことはなかった。
それから先は、元々の目的地だった弘前について、
どこいく訳でもなく交番に直行。
とはいえ、直接的な被害が車にも俺にもないから、
とりあえず話は聞いてくれたって程度だった。
徘徊か酔っ払いか、みたいな。
情報は共有しときますってどっかに連絡入れてはくれたけど。
その後は正直旅って気分でもなかったけど、
一人で駐車場で寝るみたいな気分には到底なれなくて、
24hサウナつきのカプセルホテルに泊まった。
人もそこら中にいるし、男だけの空間なのがありがたいと
感じたのはこのときくらいだろうと思う。
朝になってから、昨日付けの事件とか事故とか不明者とかの
ニュースがないか携帯と新聞で調べてみたけど、
特にそういう情報はなかった。
帰りは、四の五の言わずに高速使って帰ることにした。
結局、あれがなんだったのかは未だに分からない。
けど、しばらく山道を車で走る気にはなれないって話でした。
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