【不思議な話・短編】
【不思議さ 7】★★★★★★★☆☆☆
『いじられキャラのA』
高校のときのクラスで、いじめられてる訳じゃないけど、「いじられてる」Aという奴がいた。
なんというか、よく問題を当てられても答えられなくて、笑われるような感じ。
でも本人はへらへら笑ってて、特に暗くも無いし、鈍感という言葉が当てはまる奴だった。
ちなみにAは喋るとき少しドモり気味で、それも笑いのネタにされていた。
夏休み前、遊びと称して心霊スポットへ連れて行って脅かしてやろうという、
工房丸出しの幼稚な考えを思いついた俺達グループは、そいつに声をかけた。
一つ返事で承諾したA。場所は現地でも有名なダムで、その周辺の探検という事に決まった。
そして当日。真夏の夜、Aを含め5人はいたものの、
場所が場所だけにやっぱりひんやりとして、ちょっと不安になった。
それでもここまで来たなら行こう、という事で、
膝の辺りまで茂った草、湿って不安定な地面を進んでいく。もちろん先頭はA。
ある一定の所まできたら4人そろって隠れてやろうという事になっていた。
(バカ高校の生徒の頭で考える作戦はこれが限界)
10分くらい彷徨ったとき、廃屋、というか小屋みたいなものを見つけた。
それを見つけてここがタイミングだな、と隠れようとしたとき。
小屋の入り口付近に、白い女が、もう本当にイラストとかで見る「髪の長い白いワンピースの女」がいた。
そいつがこの世のものではないのが一瞬でわかった。
誰かが逃げろ!と叫んだ。俺も走り出そうとした。ところが。
Aが逃げない。
「おい、A!後ろ見てみ!早よ逃げるぞ!」といっても、きょとんとした顔でAは、
「ん、んー?なんか、お、おるんかー?(ドモってるからこんな感じ)」と。
どうやら彼だけ「見えて」ないらしく、きょろきょろしてそこから動こうとしない。
置いていくわけにも行かず、逃げるに逃げれなくなった俺達。
女が滑るように近付いてくる。Aの方向ををこれ以上ない、恐ろしい笑顔で見ていた。
こいつを連れて行こう、みたいな、こいつなら気付かずに、見たいな・・・
やばい・・・とは思うものの何も出来ない。とうとう女がAの隣りまで来た。
「なあんてな。コイツやろ?」
「え?」
Aは女の顔に自分の顔を近づけ、面と向かって言い出した。
「おい、コラ。こんなトコで彷徨う事しか出来んのかお前は。
いい加減死んだ事に気付け、このアマ。」
ワンピースの女はもう笑っていなかった。
明らかに動揺した顔を2,3秒浮かべた後、ふっと消えた。
Aは最後に「そのほうがいい。」と呟いた。途端、雨が降りはじめた。
Aは唖然としていた俺達に向かって「ん?行こ、行こ。」と。
いつもの口調に戻っていた。
俺達はAと本当の友達になった。
後にAにあの時の事を聞いた。
「んー、ん、あれはな、でき、できんねん、なんかな。」
としか言わなかった。
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