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『満月の夜』【ヒサルキ】【怖い話・短編】

ヒサルキ【関連話】

元スレ: ∧∧∧山にまつわる怖い話Part10∧∧∧

【怖い話・短編】
【怖さ  6】★★★★★★☆☆☆☆

404: 否猿 04/07/02 19:36 ID:JoA/BUnv
ところで、俺の話も聞いてくれ。
俺の実家は山あいの村で、昔は猿がキュウリやらトマトやら
畑に盗みにくるくらい田舎だった。
小学校3年の夏、四つ上の兄貴と一緒に、友達んち遊びにいった時のこと、
すっかり日が暮れて、夕飯まで御馳走になってしまった。
帰る時、友達のおかあさんは、懐中電灯貸そうかって言ってくれたんだけど、
兄貴は、月がでてるから大丈夫ですって言って、断ったんだ。

その夜はいい満月で、雑木林の中でも暗いって思う事はなかった。
で、ジャリ道歩いてたんだけど、俺、急につまずいた。
手も膝小僧もすりむいちゃって、ちょっと涙目になったけど、
起き上がって、なんにつまずいたんだろ?って眺めると、
兄貴が「おい!お前・・・」って言って俺の足もと指差した。
最初兄貴が何言ってるのかわからなかったけど、しばらくして俺も気付いた。
兄貴の影はひとつ。俺の影、ふたつあった。

 

405: 否猿 04/07/02 19:39 ID:JoA/BUnv
その時、変な声が聞こえた。囁くような、いやらしいしゃがれ声。
見ると、影がますますおかしい。
俺は動いてないのに、右側の影だけ震えてる。
肩を震わせて、まるで笑ってるようだ。
兄貴が小さく叫んだ。「おい、走るぞっ」
だけど、俺は動けない。見たくないのに、すごい嫌なのに、
影から目が離せなくなってる。まるで金縛りだ。
「何やってんだ!行くぞ!」兄貴が怒鳴って俺の手つかんだ。
地面の上の兄貴の影が、俺の影をつかもうとした時、
一瞬早く、変な影は、腕を伸ばして俺の影をグイッて、ひっぱった。
変な影は俺の影をひきずったまま林ん中へぱたぱた逃げてった。

現実の兄貴は俺の手をしっかり握ってるのに、
地面の上の兄貴の影の先には何もない。

 

406: 否猿 04/07/02 19:43 ID:JoA/BUnv
なにか取り返しのつかない事が起きた気がした。
俺は泣き出した。急に怖くなって大声あげて泣いた。
兄貴も青ざめていた。
だけど、行動は早かった。
お前ここにいろ、絶対に動くなって言ったがはやいか、
兄貴は林の中を掻き分けて飛び込んでいった。
俺、行っちゃ嫌だーって叫んだんだけど、
動くなよっ
兄貴の最後の声が薮の中から聞こえてきて、それっきり静かになった。

ずいぶん待ったけど、二度と兄貴が帰ってくる事はなかった。
兄貴の言いつけを守れず、俺は泣きながら家に帰った。
両親は俺が独りで帰ったのでびっくりしていた。
俺は一生懸命説明したが、理解してもらえなかったらしい。
親父は兄貴を探すため、家を飛び出していった。
何度も本当の事だといったが、お袋はなだめるばかりで、
俺はとうとうかんしゃくをおこした。お袋は困った顔で言った。
でも、ほら、あなたの影はちゃんとあるわよ。
畳の上をみた。俺の影はあった。

 

407: 否猿 04/07/02 19:48 ID:JoA/BUnv
最悪の事態を予想していた両親と俺だったが、
次の朝、兄貴はひとりで帰ってきた。
そのまま倒れるようにして眠ると、夕方、目を覚まして俺に言った。
「お前、本物か?」
何言ってるの?と俺が聞くと、兄貴は難しい顔をした。
影を追って森の中を走っていると、草むらで大きな猿にであったらしい。
その猿は俺の顔をしており、俺の声で笑ったそうだ。
逆上した兄は、ポケットにあったベーゴマをわしづかみにすると
猿にむかって投げつけた。
ひとつが額に命中し、猿はぎゃっと悲鳴をあげて顔を覆った。
猿が振り向いた時、その顔は渦を巻いたようにねじれており、
もはや、目も口もわからなかったそうだ。
化け物は兄に飛びかかり、すごい力で兄の首を締め上げた。
かなわないと思った兄はその手に思いっきり噛みついた。
兄は突き飛ばされ、木に頭をぶつけてそのまま気を失ってしまったそうだ。
そこまで話すと兄貴は黙りこくった。

俺はおそるおそる尋ねた。「お兄ちゃんこそ本物なの?」
むっとした顔で兄は俺の頭を殴った。「ふざけんな、この野郎。」
いつもの優しい軽いゲンコツだった。
俺は泣きながら笑った。兄貴も笑った。

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