【不思議な話・短編】
【不思議さ 6】★★★★★★☆☆☆☆
『山小屋でのバイト』【不思議な話・短編】【不思議さ6/10】
とあるバイト雑誌に「山小屋を1日間、管理してもらいたい」という
応募記事が目に付いた。日給2万円。すぐさま電話すると「締め切りました」と。
がっくりしてると、次の週のバイト雑誌にも載ってたので、すかさず電話。
今度はファミレスで面接までこぎつけた。バイト代は、泊まった翌日の朝に支払われるらしい。
なぜか俺ら2人は即決し、山小屋までの地図のコピーをもらい、その日がやってきた。
意外と市街地から近く、私有地の山林の中にその山小屋はあった。「私有地により進入禁止」と
書かれた金網の所に、初老の男が立っており、
「バイトの00君と00君だね、話は聞いてるから通って」
と言い、俺らに山小屋の鍵をくれた。10分ほど歩くと、山小屋が見えてきた。
丸太で出来たのを想像してたんだが、ちゃちなプレハブだった。風呂がないのと
食料持参なのが玉にキズだったが、高い日給に俺らは上機嫌だった。バイト内容は、
「山小屋内の軽い清掃と、外の植木鉢に水を朝夕やること」のみだった。
トランプやボードゲームしたりして時間を潰してた。エアコンもなく、最初は地獄の暑さを
予想もしたが、緑に囲まれてるためか、多少汗ばむ程度で意外とひんやり心地よかった。
やがて夜になり、コンビニのおにぎりとパンで夕食を済ませた俺らは、早々と
パイプの簡易ベッドで寝る事にした。
その夜、物凄い嫌な夢を見た。断片的にしか覚えてないが、とにかく
「寝てる体の下から多くの手に突き上げられて、散々触られた挙句に引き裂かれる」
と言う様な内容だった。翌朝、最悪の気分で起きると、心なしか友人の顔色も悪い。
「どうした?俺、なんか変な夢見て気持ち悪ィーんだよな」
「夢?俺も見たがこれこれこういう夢だけど…」
「同じ夢じゃん!」
気持ち悪くなった俺らは、しばらく無言になった。やがて、友人がポツリと言った。
「なぁ、このプレハブの床なんだけど…気のせいかもしんないけど微妙に揺れてない?」
そう言われれば、何かウォーターベッドの上にいる様な不思議な感覚が目覚めた時にあった。
夢の名残だろうと思い、別に気にも留めてなかったんだが…
友人が言った。確かに、プレハブは地面から10cmほど浮いており、床下の四方を
ポールが支えている作りになってるようだった。気になった俺は、友人に同意した。
俺らは外に出た。朝とはいえ、まだ5時ちょっと前で結構薄暗い。友人は持参したミニペンライトで
床下の隙間を照らした。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうした!!」
「腕!!腕腕腕腕、腕がぁぁぁっぁぁ」
「あっ!!」
床下には青白い、無数の切断された腕が、散らばっていた。だが、腕の切断面を
見た瞬間、マネキンの腕だという事がすぐ分かった。ただ、異様なのは全ての
マネキンの腕に、女の顔写真(ポラロイド)と名前がマジックで書いてあった。
全部で50個近くはあったんじゃないだろうか。マネキンであることは、触って間違いなく確認した。
「何だよこれ…普通じゃねーよ…バックれようか?」
「馬鹿、一応金もらうまで待とうよ。それでまた新たに何か言ってくるようであれば、逃げよう」
あれこれ話している内に7時になり、昨日の初老の男がやってきた。
「お疲れ様。早いね。早速、これバイト代ね…ところで提案があるんだけど、
あと3日間くらい泊まれないかな?もちろんバイト代は3日分の6万払うけど」
「お断りします」
俺たちはハモるように言い、一目散に歩いた。振り返ると、男が苦々しそうな
顔をして、携帯を耳にあてこっちを睨んでいた。それ以来、バイト雑誌で
その応募記事は見たことがない。おそらく、あのプレハブもないだろう。
帰り道、友人がいった。
「何かの実験だったんだろうね」
俺は軽く頷いて、同意した。
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