【怖い話・短編】
【怖さ 7】★★★★★★★☆☆☆
『セールス先』【怖い話・短編】【怖さ7/10】
こないだ俺が体験した、すんごいぞっとした話。
俺、事務用品のセールスやってんのね。
中小企業に勤めてる社会人なら経験あると思うんだけど、
雑居ビルみたいなところに入ってる会社に
「事務用品会社のものなんですが」っつって注文取るやつ。
まあ大概は結構ですって言われて門前払い食うんだけど、
その日行ったある会社は様子が違ったんだ。
ドアをノックしてからあけて、
「こんにちは、突然失礼いたします、○○という事務用品の店なんですが」
っていういつもどおりのセールストークして、社内の反応伺ってたら、
応接用なんだか作業用なんだか分からない一角に座ってた人が物凄い勢いで立ち上がって、
すんごいにこやかに椅子を勧めてきてくれんの。
この時点ではちょっと違和感があったくらいで、
むしろ「あ、当たりを引いたかな、ラッキー」くらいに思ってたんだ。
んで、「事務用品のご担当者の方はいらっしゃいますか」って聞いたら、
「今ちょっと外出しておりますので、すぐに呼んでまいります」って言われて、
またしても物凄い勢いで外に飛び出して行くのさ。
何もそこまでせんでも、とは思ったけど、これなら注文まで
こぎつけられるかも知れないと考えて、おとなしく座って待つことにしたんだ。
今思えば、この時点でとっとと帰ってりゃ良かったんだけどな。
他の人たちのことを見てたんだけど、さっぱり分かんなかった。
っつーか、押しかけていって話が弾まない限りは
基本的に分かんないんだけどね。
ただ、明らかに様子がおかしいんだ。
ちょっと雑然とした感じの室内にテーブルの島が2つあって、
1つの島に2人ずつ、向かい合うように人が座ってたんだけど、
全員が全員、モニタとにらめっこしながらぶつぶつぶつぶつ独り言いってんのね。
それでもたかが独り言だし、とりあえずおとなしくしてたんだけど、
声が少しずつでかくなってきてさ。
「○○は××じゃない(←専門用語っぽくて聞き取れなかった)」とか
「畜生、畜生、畜生」とか「何でこんなことになってんだ」とか。
俺もだんだん怖くなってきて、独り言を聞かないようにしながら、
自分が座ってる机の上に置かれてた湯呑みをひたすら凝視してたんだ。
で、そこでふと、その湯呑みにお茶が半分くらいしか入ってないのが見えちゃって。
よくよく考えたら、俺はお茶なんか出されてないから、
あれは多分俺が来るまえに出されてたものだと思うんだけど、
俺が来る前に座ってたのは、さっき出ていった人なんだよな。
でもまあ、こっちは基本的に招かれざる客だし、
別にお茶を出して欲しいわけでもないから、そのまま黙ってた。
そしたらその瞬間、
「ああああああああヴぁああああああうぼあうぇあああああああ!!!!!」
みたいなすんごい叫びが聞こえて、びびってそっち見たら、
一番奥に座ってたおっさんが、気がふれたんじゃないかってくらい凄い顔しながら
ばりばり喉をかきむしって、叫んでんの。
凝視してたんだけど、10秒かそこらしたら、ぱたっとそれがやんで、
おっさん、急に無表情になんの。手の動きもぴたっと止まってさ。
さらにはいつの間にか他の人の独り言もとまってて、シーンとしてんの。
それで、流石にこりゃやばいと思って席を立とうとするんだけど、
頭に体がついていかないっていうか、妙に固まって動けずにいたら、
そのおっさんが、すぅっとこっちに顔向けて。俺、おっさんと目があっちゃって。
その目がもう、なんつーか、死んだ魚のような目っていうか、
暗くにごって何も映し出してない雰囲気がこっちまで漂ってきてて、
背中を冷や汗がつーっと垂れてくのを感じて、でも動けなくて。
(クーラーのきいた部屋だったから汗が出るような温度じゃないんだが)
そしたら今度は他の人たちも次々にこっちにゆっくりと顔向けてきて、
やっぱり、全員不気味すぎるくらい無表情。
もうその瞬間、緊張の糸が切れて、「しししし失礼します!」って叫んで
その部屋を飛び出したんだけど、外に出たら、気温の差なのかなんなのか、
急に汗がだくだく出て来て。心臓もバクバク言ってて。
それ以降その会社にもそのビルにも行ってないから、
あれが一体何だったのかは未だに分かんないし、
俺を出迎えてくれた人の正体も不明なまま。
つーか、担当者がきたらすぐ渡そうと思って机の上に俺の名刺を
出しっぱにしてきちゃったのが怖い。今んとこ電話はないけど。
以上、霊魂とかそういうのじゃないけど、俺が遭遇した恐怖体験でした。
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